○船内操縦席 4席 昼夜不明
     下手からシンタニ、ホリベの順で現れる
     中央左(上手側)席にシンタニ、右端(下手)にホリベ 
     ホリベの椅子は舞台袖下手に向かっている
     シンタニ、正面で端末を触りながら
シンタニ「それで?冬眠が解けた原因は?」
     ホリベ、顔を上げず端末をいじりながら
ホリベ「オハルに聞いてください。」
シンタニ「オハル、冬眠装置の」
     オハル、遮るように無機質に
オハル「システム。初期化。システム。初期化。」
     シンタニ、ホリベに顔を向けながら
シンタニ「システム初期化って言っているけど?」
オハル「システム。初期化。システム。初期化。」
     ホリベ、顔を上げず
ホリベ「判ったから黙らせてください。」
シンタニ「オハル、アラート解除。」
     ヤナギサワ、舞台下手から慌てて登場
ヤナギサワ「何です?一体何事です?」
     「隕石ですか?それとも宇宙海賊?」
     シンタニ、ヤナギサワに向かって
シンタニ「まあまあ落ち着いて座ってください。」
     シンタニ、ヤナギサワに左端(上手)の席を勧める
シンタニ「申し訳ない。システムエラーのようです。」
     「今エンジニアが調べています。」
     ホリベ端末での作業をつづけながら
ホリベ「エラーじゃくて初期化って言っていましたよね。」
     シンタニ、ホリベに向かって
シンタニ「エラーが起きて初期化されたって事じゃあないのか?」
ホリベ「それを調べたいのですが端末が初期化されていて。お2人のはどうですか。」
     シンタニ、端末を見ながら
シンタニ「あら、私のも初期化されているな。」
     ヤナギサワ、端末を見ながら
ヤナギサワ「この0が点滅しているのって初期化されているって事ですよね。」
シンタニ「つまり何?」
ホリベ「全部船のシステムと同期されていた事が判っただけです。」
シンタニ「オハル、現在の火星標準時刻は?」
オハル「システム。初期化。システム。初期化。」
シンタニ「判った。止めて。再起動したらどう?」
ホリベ「再起動はされています。引力パネルが効いていますからね。」
シンタニ「停電もあったか?」
     ヤナギサワ取り乱し
ヤナギサワ「それはいけない。停電は怒られます。冷蔵庫の電源が」
     シンタニ、ヤナギサワに向かって
シンタニ「落ち着いて。冷蔵庫の電源には停電用のバッテリーが繋がっています。」
ホリベ「中身って鉱物資源のサンプルですよね。冷やす必要があるとも思えない。」
ヤナギサワ「私も上ら指示されただけなのでなんとも。温度管理は必要だとしか聞かされていません。」
     シンタニ、ホリベに向かって
シンタニ「再起動されたなら大丈夫だよな?」
ホリベ「初期化って言っていますから大丈夫とは言い切れません。」
     「システムチェックしましょう。」
     シンタニ立ち上がり
シンタニ「判った。何からやる。」
ホリベ「立ったついでに手を挙げてください。」
    シンタニ、両手を上げる
シンタニ「こうか?で?」
ホリベ「風吹いてますか?」
シンタニ「風?うーん。いや、何も感じないぞ。」
ホリベ「エアコンが止まった。てことはやはり電力落ちたようです。」
     「立ったついでに酸素プラントの稼働を確認してもらえますか?」
     シンタニ、下手に向かい小走り。袖に消えてすぐに戻る。
シンタニ「動いていた。緑ランプは正常稼働って事だよな。」
ホリベ「エアコンも入れましたのですぐに循環します。
     ヤナギサワ、ホリベの作業を覗き込む
ヤナギサワ「プラントは火星と同じ仕様ですか?」
ホリベ「人口光合成と予備の植物があります。」
ヤナギサワ「それでは二酸化炭素も再利用を?」
ホリベ「水素と合成させて水を作ります。」
ヤナギサワ「こんな小さな船で、おっと失礼。」
シンタニ「酸素生成とそれ以外の除去装置は義務なので。」
ヤナギサワ「それ以外?」
ホリベ「アセトンやメチルアルコール、一酸化炭素も呼気に含まれます。」 ※1
     「汗にはアンモンニア、腸からはメタンとか。」
ヤナギサワ「窒素は?」
シンタニ「窒素は取り込んでもそのまま体外に排出されますね。」
ホリベ「なので他の物と一緒に除去されます。その分の補充は必要です。」
シンタニ「中学の化学でやったアレか。亜硝酸ナトリウムと塩化アンモニウム。」
ヤナギサワ「この船に科学室があると?」
ホリベ「あるのは窒素の詰まったボンベです。生命維持システム稼働と循環確認。これで窒息はなし。」」
シンタニ「次は?」
ホリベ「航行プログラムの起動ですかね。バックアッ」
     シンタニ、ホリベの言葉に被せるように
シンタニ「バックアップならないぞ。」
     ホリベ、顔を上げシンタニに向かい
ホリベ「いや義務ですよ。ブラックボックスも。」
シンタニ「知らん。最初から無かった。」
ホリベ「最初?標準装備なのに?」
シンタニ「無い物は無い。エンジニアならなんとかしろ。」
     ヤナギサワ、慌てて
ヤナギサワ「漂流ですか?ここはイプサーロン惑星系ですか?」※2
     ホリベ、端末に向き直り呆れながら
ホリベ「じゃあ現在地の入力からやりな直さないと。」
シンタニ「プログラムの起動は?もしかしたらデータ復旧するかも。」
ホリベ「もう起動はしています。復旧しないからバックアッ」
シンタニ「バックアップは無いっ。目的地設定からだな。オハル、目的地設定だ。地球へ。」」
ヤナギサワ「違います。オハルさん目的地は月ですよ。地球へは直接行けません。」
オハル「目的地。設定。地球。ヨロシイデスカ。」
シンタニ「目的地変更。月。」
オハル「目的地。設定。月。ヨロシイデスカ。」
シンタニ「よろしいですよ。」
オハル「目的地。設定。月。完了しました。」
ヤナギサワ「船長の言うことしか聞かないのは不便ですね。」
ホリベ「管理者権限を与えればって、まだ誰にも与えていないはずなのに。」
シンタニ「現在地の設定だよな。星の位置は?」
ホリベ「え?ああはい。サブスクリーンに映像回してください。あとカメラの操作も。」
シンタニ「オハル、サブスクリーンで現在地設定を手動で実行。」
     ヤナギサワ、ホリベの前のスクリーンを覗き込みながら
ヤナギサワ「知ってますよ。パルサーですよね。」
     「規則的な信号発信するから宇宙の灯台って言われてる。」
ホリベ「いや、目印になる星を」
ヤナギサワ「あー知ってます。北極星ですよね。ポラリス。」
     「地球の北極点の延長線上にあって動かないように見えるから大昔は航海に使ったって。」
シンタニ「よくご存じですね。ちなみに北極星は変わっているんですよ。」
     「大昔はベガがその位置にあったり。」
     「遠い未来にはデネブになったり。」
     ホリベ、スクリーンをタッチしながら
ホリベ「デネブになる頃には地球が無くなっているんじゃあないですかね。」
ヤナギサワ「怖い事言いますね。」
     ホリベ、画面を操作しながら
ホリベ「使うのは火星と、地球と、いくつかの一等星です。」
ヤナギサワ「今度こそ判りました。三角測量ですね。」
ホリベ「いくつか入力しました。確認してください。」
シンタニ「オハル、メインスクリーンに現在地を表示。」
   シンタニ、ホリベ、ヤナギサワ、正面のスクリーンを見上げる
ヤナギサワ「お、出ました。今どのあたりですか?」
ホリベ「速度が変わっていなければ冬眠から150時間程度ですね。」
ヤナギサワ「1週間てところですか。」
ホリベ「火星の位置が判ったのでアンテナ向けてビーコン拾います。」
     「そしたら正確な日時も判ります。」
     シンタニ、立ち上がり身体を伸ばして
シンタニ「やれやれ。これでもう一度寝られるな。オハル、冬眠装置の起動だ。」
オハル「システム。エラー。トウミン。ジッコウ。ヒテイ。」
シンタニ「位置が判れば航行日数も出るだろ。再設定してくれ。」
オハル「システム。エラー。トウミン。ジッコウ。ヒテイ。」
     ホリベ、端末を操作しながら
ホリベ「システムエラー?冬眠装置の?」
シンタニ「手動で起動できないか?」
ホリベ「冬眠するだけなら可能です。ただシステムエラーとなるとタイマーが動くかどうか。」」
ヤナギサワ「タイマー動かなかったらどうなります?」
ホリベ「永遠の眠りにつきます。」
ヤナギサワ「それは困りますね。」
シンタニ「誰か1人だけ起きていて到着したら2人を起こすのは?」
ホリベ「それならまあ。」
ヤナギサワ「あ、じゃあ私起きてますよ。星を見るのは好きなので。」
シンタニ「いやいや4か月近くかかります。」
    「ここは船長である私が責任をもって監視しますよ。」
ホリベ「それならエンジニアである私が適任です。お2人ともお休みください。」
ヤナギサワ「いやいや私が。」
シンタニ「なんのなんの私が。」
ホリベ「私しかいませんよ。」
オハル「システム。エラー。トウミン。ジッコウ。ヒテイ。ジッコウ。ヒテイ。」
ホリベ「その前にオハルさんに一太郎を紹介する必要がありそうですね。」※3
ヤナギサワ「誰?」
シンタニ「JCAか松竹の養成所に入学させるか。」※4
ホリベ「せめて東京アナウンス学院で。」

1         JAXAHPより 

2         イプザーロン惑星系 = アニメ「銀河漂流バイファム」より  

3         一太郎 = ジャストシステム社・日本語ワープロソフト         

4         JCA = プロダクション人力舎・スクールJCA